
【2025年美容室倒産が過去最多を更新】いま、業界で何が起きているのか?

美容業界に激震が走っています。2025年1月から8月までの美容室倒産件数が157件に達し、2024年度は197件(〜2025年2月)と過去最多なので、年間換算すると過去最多を更新する見込みです。
出典:帝国データバンク
前年の215件を10%近く上回るペースで倒産が増加している現実を、私たち美容業界に携わる者はどう受け止めるべきでしょうか。
この記事では、美容室経営者やフリーランス美容師、そして将来独立を考えているあなたに向けて、業界が直面している構造的課題と、それでも生き残るための戦略について、データに基づいて徹底解説します。
倒産215件の裏に隠された「閉店1万件」という現実

2024年の美容室倒産件数は215件。しかし、この数字は氷山の一角に過ぎません。
倒産としてカウントされるのは、負債1000万円以上の企業が債務不履行に陥ったケースのみです。個人オーナーが静かに店を畳むケース、多店舗展開している企業が不採算店を閉じるケースは、この統計には含まれていません。
出典:帝国データバンク
新規開店数と既存店舗数の推移から推測すると、実際の閉店数は年間1万件以上に上る可能性が高いのです。つまり、毎日30店舗近くの美容室が日本のどこかで閉店している計算になります。
なぜ今、美容室が潰れているのか?三大要因の深層

1. 美容師争奪戦:求人倍率5.73倍の衝撃
厚生労働省JobTagの直近公表(令和6年=2024年)の美容師の求人倍率は5.73倍。これは1人の美容師を6社で奪い合っている状態を意味します。地域差・月次変動はあるものの、構造的な採用難が続いています。
人材が確保できなければ、どんなに集客力があっても売上を伸ばすことはできません。予約を断らざるを得ない状況が続けば、顧客は他店に流れていきます。
2. コスト上昇という重圧

この5年間で物価は12%上昇しました。家賃、光熱費、商材仕入れ代、そして最低賃金の引き上げ。美容室経営を取り巻くコストは、あらゆる方面から上昇圧力を受けています。
出典:総務省統計局
利益率の低い美容室ビジネスにおいて、この12%のコスト増は経営を直撃します。値上げで対応しようにも、後述する「国民の貧困化」という壁が立ちはだかります。
3. 店舗過剰による集客の分散
美容室の数は27万店舗を超え、今もなお年間3000〜4000店舗のペースで増加しています。新規開店が年間約14,000店舗、閉店が約10,000店舗という状況です。
出典:厚生労働省
しかし、この三大要因だけでは説明しきれない構造的な問題が、美容業界の足元を揺るがしています。
見えない危機:現役世代の急速な減少

日本の総人口減少がニュースになっていますが、美容業界にとってより深刻なのは「現役世代の人口減少」です。
15〜64歳の生産年齢人口は、総人口よりもはるかに速いペースで減少しています。この年齢層は美容室の主要顧客層と重なります。つまり、美容室の潜在顧客そのものが急速に縮小しているのです。
出典:総務省統計局
グラフを見ると、働き盛りの人口は既にピークを過ぎ、下降線をたどっています。高齢者人口は増えていますが、美容室の利用頻度や客単価は現役世代と比べて低い傾向にあります。
1店舗あたり270人の時代:集客難の数学的根拠

さらに衝撃的なデータがあります。見込み顧客人口を美容室の店舗数で割ると、1店舗あたりの潜在顧客数が算出できます。
- 2002年:1店舗あたり約400人
- 2025年:1店舗あたり約270人
20年間で約33%も減少しています。
美容室の数は増え続け、肝心の顧客となる人口は減り続ける。この数学的な矛盾が、今の集客難を生み出している最大の要因なのです。
財布の中身が寂しくなる日本:エンゲル係数が示す危機

追い打ちをかけるように、日本人全体の貧困化も進行しています。
総務省が公表しているエンゲル係数(生活費に対する食費の割合)は、2020年頃から上昇を続けています。この指標が高いほど、食べることで精一杯で、衣類、娯楽、教育などにお金を回す余裕がない状態を示します。
エンゲル係数は1970年代から2000年代にかけて低下し、23〜24%程度で推移していましたが、2024年には28%まで上昇しています。
出典:総務省統計局
お客様の財布が厳しくなれば、美容にかける予算も削られます。来店頻度が下がる、低価格帯のメニューを選ぶ、あるいは美容室そのものを我慢する。こうした行動変化が、売上に直結します。
経営の複雑化:美容師の腕だけでは勝てない時代

10年前なら、技術力とホスピタリティで差別化できた時代がありました。しかし今は違います。
美容室経営には、以下のような多岐にわたるスキルが求められています。
- デジタルマーケティング:Instagram、TikTokでの集客、META広告やGoogle広告の運用
- AI活用:業務効率化、顧客分析、予約管理の最適化
- 財務管理:キャッシュフロー管理、損益分岐点の把握
- 労務管理:労働基準法の遵守、社会保険料の理解、ハラスメント対策
プレイヤーとして優秀であることと、経営者として成功することは、全く別のスキルセットが必要なのです。
さらに、これらのスキルは常に進化しています。
SNSのアルゴリズムは頻繁に変わり、AIツールは日々新しいものが登場します。学び続けなければ、あっという間に取り残されてしまう時代です。
それでも、美容師として生き残る道はある

ここまで読んで、暗い気持ちになったかもしれません。しかし、これが現実です。
問題から目を背けていても、状況は改善しません。むしろ、今この瞬間にも競合が一歩先を行っているかもしれません。
これは美容業界だけの問題ではない
ここで理解してほしいのは、これらの課題は美容業界特有のものではないということです。
人口減少、コスト上昇、消費者の購買力低下、デジタル化への対応。これらはほぼ全業種が直面している日本全体の構造的課題です。
美容師を辞めて他業種に転職すれば解決する、という単純な話ではありません。むしろ、経験とスキルを積み重ねてきた美容業界で戦う方が、まだ勝算があるはずです。
生き残るための5つの戦略

では、具体的にどうすればいいのか。以下の5つの戦略を提案します。
1. 専門性の確立と差別化
「何でもできる美容室」ではなく、「これなら任せてほしい」という明確な強みを持つことです。
- カラーリングのスペシャリスト
- ダメージレス施術の専門家
- 特定の髪質(くせ毛、細毛など)のエキスパート
- 特定の年齢層(ミセス向け、メンズ特化など)への特化
専門性は価格競争から抜け出す鍵になります。
2. デジタルへ投資
SNS運用、広告運用、顧客管理システムの活用など、デジタルスキルは避けて通れません。
最初から完璧を目指す必要はありません。まずは一つのプラットフォームから始めて、徐々に広げていきましょう。
広告は来店単価・LTV基準でCPA管理。予約/CRMは既存顧客の再来率を最優先KPIに。
美容業界のオーナーもセミナーに参加する、オンライン講座を受講するなど最近流行っています。しかし、トレンドの移り変わりが早い分野なので、本業の合間で学んでいる間に次のトレンドが来てしまいます。1から全て学ぶよりも業者に外注してしまい、本業にリソースを割いた方が生産性は高いでしょう。
3. 顧客との関係性を深める
新規顧客の獲得コストは、既存顧客のリピートコストの5倍と言われています。
減少する顧客パイを新規で奪い合うのではなく、既存顧客との関係性を深め、来店頻度を上げる、客単価を上げる戦略が有効です。
- 丁寧なカウンセリングで信頼関係を構築
- ホームケアアドバイスで次回来店までの状態をサポート
- ライフスタイルに合わせた提案で顧客満足度を向上
4. 財務知識を身につける
売上だけでなく、利益率、固定費と変動費、損益分岐点など、基本的な財務知識は経営者には必須です。
数字を理解することで、値上げの判断、メニュー構成の見直し、コスト削減の優先順位など、的確な経営判断ができるようになります。
5. 持続可能な働き方の設計
長時間労働で自分を消耗させる働き方は、もはや持続不可能です。
施術以外は自動化/外部化(予約調整、定型DM、在庫補充)。人が足らない時はメニュー整理と価格改定で利益体質に。
効率化できる業務はAIやシステムに任せ、自分にしかできない技術やコミュニケーションに時間を使う。こうした働き方の再設計が、長く美容師として活躍するカギになります。
ポイントは「既存顧客の再来×単価×紹介」に経営リソースを寄せること。新規の取り合い中心だと、人口・店舗動態の逆風を受けやすくなります。
まとめ

美容業界を取り巻く環境は、確かに厳しくなっています。しかし、どんな逆境の中でも成長する美容室、輝き続ける美容師は存在します。
その違いは何か。現実を直視し、学び続け、変化に適応する力です。
現状維持は衰退です。環境が変わった以上、私たちも変わらなければなりません。
しかし、それは決してネガティブなことではありません。
変化は新しいチャンスでもあります。
デジタル化が苦手な競合が淘汰されれば、それに対応できる美容室にチャンスが回ってきます。専門性を持たない美容室が消えれば、明確な強みを持つ美容室が選ばれやすくなります。
美容師という仕事は、人を美しくし、自信を持たせ、笑顔にできる素晴らしい職業です。
その価値は、たとえ環境が厳しくなっても変わりません。これはAIに取って代わられない素晴らしい仕事です。
だからこそ、今この瞬間から、できることを一つずつ始めましょう。小さな一歩が、5年後、10年後の大きな差を生み出します。
美容師として、経営者として、あなたがこの業界で輝き続けることを願っています。

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